2025年度は堅調に推移。DXを軸に次のステージへ
福井コンピュータグループの第3期中期経営計画(以下、中計)は初年度の上期を終え、主力のCADシステムを中心に業績は堅調に推移しています。しかし、建設業界全体を見渡すと、慢性的な人手不足、資材価格の高騰、住宅着工件数の減少など依然として厳しい環境が統いています。これらの課題は一見逆風に思えますが、当社にとってはDXによって新たな価値を提供できる機会でもあります。
同時に、業界には根強い保守性が存在します。現場では「最終的に提出する図面は2次元」という意見が強く、BIM/CIMやXRなど新技術の導入には時間がかかるのが実情です。確かに当社のCADなど従来の製品は高い支持を得ていますが、新世代の3次元ソリューションの普及にはまだ壁があります。しかし、この業界の保守性こそ、当社が先駆者として乗り越えるべき挑戦だと考えています。
現在の中計では、まさにその壁を越えて業界に新たな価値基盤を築くべく、「FC Apps Direct」や「共通データ環境(CDE)」といった重点施策を掲げました。建設業界に特化したサービスプラットフォーム「FC Apps Direct」は、“建設業の新しい購買体験”を創出する取組みです。また、「共通データ環境(CDE)」は建設業全体の生産性向上を支える“デジタルの道路”を作るという、中長期的視点に立った挑戦です。中計初年度の今期は共通プロダクト基盤の構築やデータセンターの本格稼働などインフラ整備に注力しており、そうした足場を盤石にすることで将来の成長の土台が築かれると確信しています。
建設業の未来像と「選ばれる産業」への進化
建設業が直面する最大の課題は、人手不足とそれに伴う生産性の低迷です。職人の高齢化が進む一方、若年層や女性の新規参入は依然として低調で、このままでは業界の持続可能性が危ぶまれます。将来、担い手がいなくなれば社会インフラの維持すら困難になりかねません。こうした危機感から、私は建設業を魅力ある産業にしなければならないと強く感じています。実際に建設業は労災事故が多く、安全面や労働環境にも課題がある現状です。だからこそ最新テクノロジーの導入によって業界のイメージを刷新し、「建設業って面白そうだ、挑戦したい」と思ってもらえる未来を描いていかなければなりません。
その実現のためには、ドローン、自動化施工ロポット、AI、XR など先端技術を積極活用し、優秀な人材が進んで建設業を志望するような魅力的な業務環境を整えることが不可欠です。当社はこれまで、現場のデジタル化や遠隔臨場、省人化をキーワードに、調査·設計·施工·維持管理といった各プロセスをデジタルでつなぐ製品群を展開してきました。今後はさらに一歩踏み込み、BIM/CIM※を中核とした次世代プラットフォームを構築し、建設業の働き方そのものを変革していきます。その鍵となる技術が、AIとXRの戦略的活用です。XRはVRやARに代表される没入型技術で、仮想空間上で安全教育や施エシミュレーションを行うことで現場の安全性と生産性を向上させる“体験の器”です。当社はこの直感的な仮想体験空間に、設計ノウハウや危険予知の知見をAIによって盛り込み、AIとXR を融合させた新たな建設に特化したメタバースを視野に入れ取り組んでいます。
なお、当社のR&Dでは技術そのものを深追いするのではなく、業界変革という目的達成の手段として技術を活用する方針を徹底しています。技術を使うこと自体が目的化しないよう留意し、産業の未来を見据えたイノベーションに邁進してまいります。
組織を動かす理念の浸透と、社内文化の醸成
中計を真に実現するには、全社員が計画を自分の事として理解し、日々の行動に落とし込むことが重要です。当社では理念やビジョンを共有するだけでなく、それを現場レベルで腹落ちさせることに努めています。そのため、経営陣からの一方的な発信に留まらず、社員との双方向の対話を重視しています。各拠点でタウンホールミーティングを開催し、現場からの率直な声を繰り返し吸い上げ、疑問や違和感、時には批判的な意見にも耳を傾けています。
当社の企業風土として、かつてはトップダウンで方針が決まり、現場の意見が届きにくい時期もありましたが、今では社員が経営に対して建設的な提案や意見を交わせるようになっています。この変化は、組織が健全に成長し、社員が自らの役割を主体的に捉えるようになった証だと感じています。
さらに今年からは、部門横断で経営企画本部会議を開催し、次世代のリーダーをタフアサインメントとして経営の最前線に参画させるなどの施策を実行しています。その中で、現場のデータに基づいた意思決定を促進する、データドリプン経営の文化も定着しつつあります。
社内対話に終わりはありません。理念を共有し、実務で納得し、行動へとつなげるーーその循環を操り返し築いていくことが、当社の持続的成長の原動力です。
「FC Apps Direct」と「ARCHITREND ONE」の戦略的意義
当社の中期戦略において、建設業のデジタル基盤を構築する柱となるのが「FC Apps Direct」と「ARCHITREND ONE」です。まず「FC Apps Direct」は建設業特化型のサービスブラットフォームで、当社及び他社の様々な業務アプリケーションを集約し、ユーザーが自社の業務課題に合ったデジタルツールを選択·導入できる場を提供します。サービス開始以来FC Apps Direct は順調に立ち上がり、自社製品に限らず他社のアプリも次々に追加されています。今後は本格的な利用拡大フェーズに移行し、営業や広報などグループー丸となって価値訴求に努めてまいります。
一方の「ARCHITREND ONE」は、建築分野における共通データ環境(CDE)を具体化したクラウドサービスです。従来、設計図面などのデータは個別に紙や PDF で共有されていたため、設計変更時の情報伝達や施工段階との連携に手間とロスが生じていました。ARCHITREND ONE は設計から施工、維持管理までプロジェクト全体でデータを一貫共有し、こうした断絶を解消するインフラを提供します。
しかし、ARCHITREND ONE は従来のように設計成果をアウトプットするツールではないため、その価値を正しく理解し、導入を判断していただくまでには一定のハードルがあります。こうした課題は、クラウド型業務システムが登場した当初、多くの企業が直面した状況とも重なります。単なる導入支援に留まらず、「業務そのものの変革」をユーザーと共に進めるーーそのための伴走型のカスタマーサクセスこそが、ARCHITREND ONEの真の価値を定着させる鍵であると考えています。
AIは古代ローマ時代の“道路”と“紙”
私は社内で「AIは古代ローマ時代の“道路”と“紙”に匹敵する存在だ」と話しています。インターネットが普及し世界中の情報にアクセスできるようになった現代、生成AIの登場によってプロンプト(指示)一つで膨大な知識を引き出し、新たなアウトプットを得ることが可能になりました。これは情報流通を支える“道路”と情報記録の“紙”に匹敵する革命です。AIを使いこなすことは極めて重要であり、これを活用できるかできないかで、会社の存亡に関わるものだという風に考えています。
こうした認識のもと、当社では AIの社内活用と、AI技術を組み込んだ製品·サービス開発の双方を積極的に推進しています。例えば日常業務の効率化に生成系AIを取り入れることはもちろん、建築設計や施工管理の分野でもAIの分析·自動化能力を最大限活かせるよう研究開発を進めています。ただし重要なのは、既存業務の一部をAIで代替する発想に留まらず、業務フロー全体をAI前提で再構築する大胆さです。現場からは「図面の整合性チェックを AIに任せよう」といったアイデアも出ますが、それは人間の作業を部分的に置き換える従来型の発想に過ぎません。そうではなく、「設計という業務全体をAIが担ったらプロセスはどう変わるか」とゼロベースで考えるべきです。こうして初めて、従来当たり前だった手順を省略·簡素化した真のAI時代にふさわしいソリューションが見えてきます。
もっとも、こうした発想の転換には新たなスキルや人材が必要であり、その確保·育成も今後の重要な課題です。
株主·投資家の皆様へ
刻々と変化する事業環境において、当社は柔軟な経営判断と堅実な財務戦略の両立を図っています。中計策定から1年が経過しましたが、この間に生成 AIなどテクノロジーが想定以上のスピードで進化しました。技術開発のロードマップも状況に応じた更新が必要だと痛感しています。計画を遵守することは大切ですが、それ以上に環境変化に対応する姿勢が持続的成長には欠かせません。中計にも変化への柔軟性を持たせ、必要に応じて軌道修正やリソース配分の見直しを行ってまいります。
中計では最終年度2028年3月期に売上高175億円·営業利益80億円·ROE15%以上という目標を掲げ、株主還元においても安定した配当性向を維持する方針です。現状の事業トレンドを踏まえれば、これらの数値は十分達成可能と考えています。しかし、単に既存事業の延長で数字を積み上げるだけでは真の目標達成とは言えません。当社が目指すのは、FC Apps Directによる新たなデジタルサービスやデータ連携ビジネス、AIソリューション提供といった新たな価値創出によって成長を遂げることです。仮に売上目標を達成しても、その内訳が従来型ビジネスだけでは掲げたビジョンは実現できないでしょう。
もっとも、新規事業の立ち上げには時間を要するため、短期的には既存事業への依存度が高くなる可能性もあります。そのような局面でも当社は株主の皆様との長期的な信頼関係を重視し、一時的に業績が揺らいでも安定配当を継続する方針です。中計期間中も配当性向を一定水準で維持し、将来の成長投資とのバランスを図ってまいります。堅実な財務運営の下、新たな価値創造への投資を怠らず、企業価値の持続的向上と株主還元の両立を追求していきます。
「建設業のなくてはならないになる」というミッションの下、社会を支える存在に
建設業界には課題が山積する一方、DX やイノベーションによって飛躍できる余地も大いにあります。人手不足や高齢化といった構造的問題を抱えるこの業界だからこそ、当社の ICT ソリューション及び今後展開するAI、XR 技術が果たす役割は非常に大きいと考えています。当社は「建設業のなくてはならないになる」というミッションを掲げており、目先の事業成果だけでなく産業全体の持続可能性を支える貴務があると自覚しています。
昨今、気候変動の影響もあって大型台風など自然災害が毎年のように各地を襲い、その被害も拡大傾向にあります。また鉄道や道路などインフラ事故が社会に与える影響も深刻です。一度トラブルが発生すれば都市機能が長時間麻痺し、多くの方々の生活に直結する事態が増えています。こうした状況下、インフラ老朽化への対策や防災·減災、災害復日の重要性はかつてなく高まっています。建設業の役割も「作って壊す」の循環から、社会資本の維持管理や国土強化へと大きくシフトしつつあります。
福井コンピュータグループは、こうした社会的課題に応えるべく業界とともに挑戦を続けてまいります。単に自社の利益追求に留まらず、建設業の働き方改革や安全性向上、インフラ維持への貢献といった広い視野で事業に取り組んでまいります。その挑戦には粘り強さと時間が必要ですが、社員一丸となって自社の変革と産業の進化にコミットしていきます。株主·投資家の皆様には当社の長期的な取組みにご理解とご支援を賜りますようお願い申し上げます。当社は「建設業のなくてはならないになる」というミッションを掲げ、持続的な企業価値向上と社会的使命の達成を両立すべく邁進してまいります。